16 あずさ 11.7 「それ、やりたいです」
- 2014/11/07
- 09:58
施術を終えたあずさが、その足で僕の部屋にやってきた。
靴を脱いで上がるとき、彼女がどこか首筋をかばうように見えたのは、まだ違和感が残っているからだろう。
皮膚の薄い、柔らかな部分だ。実際に傷を入れるわけではなく、厳密に言えば塗るという行為なのだけれど、それでも施術は痛く、辛かったに違いない。
それでも、この娘はやってくれたのだ。
僕に忠誠を誓うために。
「あずさ、見せてごらん。君の、奴隷としての証を」
僕がそう言うと、あずさはうれしそうに笑って背中を向けた。
後ろ髪を掻きわけ、後れ毛の生えた白いうなじを見せる。
若い女の子の、きれいなうなじ。
そこにくっきりと、僕の奴隷であることの証がある。
ほつれ毛の浮いた白い肌に、それはどこか控えめに、しかしその存在を主張するかのように、しっかりと刻まれていた。
実際に傷を付けて墨を流し入れたわけではなく、あくまでペイント・タトゥーの一種なのだが、それでもなかなか消えないようにできている。
定期的にメンテナンスをすれば、かなりの期間、そこに残り続けるだろう。
髪に隠れる場所であっても、いつ親や友達に見られるとも限らない。
そんなリスクを追ってまでも、この娘は僕に忠誠を誓ってくれるのだ。
それはもちろん、僕にとっては嬉しいことだった。
ついこの間まで、社会の底辺を張っていた自分が、こんな上品なお嬢様を性奴隷にし、あまつさえその娘から肉体も精神も捧げられている……。
つい二年前の自分に言って聞かせても、決して信じなかっただろう。
そんな、他人も羨む幸福な状況にありながら、僕の頭の一部は、妙に醒めていた。
もしかしたら、この娘の人生を引き受けるほどの覚悟が、いまの自分には必要なのかもしれない。
一時的にでも体に刻印を押し、心を含めて丸ごと自分のものにしてしまう行為は、おそらくそれに見合った代償を必要とするのだ。
僕にとって他人の人生を引き受けるということは、想像の外にあった。
だけど現にいま一人の女の子の全てを受け入れ、そしてこれから先はさらに、どんな女の子を引き受けていくかもわからない。
それが自分の宿命ならば、それを潔く受け入れようと、僕は思った。
あずさのおかげで、覚悟が決まったような気がする。自分の進むべき道を、これから迷いなく歩いていこうという決心が。
待っているのは間違いなく、破滅であろうけれども。
「あずさ」
僕は呼びかけた。
「一人前の僕の奴隷になるための、通過儀礼のようなプレイがあるんだ。やってみるかい?」
うなじを見せていた彼女が、後ろ髪に手を添えたまま振り向く。つぶらな瞳が僕を射抜いた。
「それは、どういうものですか……?」
かつて遙にさせた、屋外でのプレイのことを離した。
僕のいないところで、一人だけで行う羞恥行為。
抵抗を示すと思っていたあずさは、意外にも瞳を輝かせた。
「それ、やりたいです、私」
「本当に?」
「ええ、だってそれをすれば、私はもっとご主人様に喜んでいただける奴隷になれるんでしょう? だったら喜んでやります」
僕はまじまじとあずさの顔を見た。どこにも繕った様子はない。
無理して言っているのではなく、この娘は本気で、僕の出した課題をクリアしたがっているのだ。
「あずさはこれまで、他人のいるところで僕に責められるのを好んできたよね。今度は僕なしで実行するんだよ」
「はい」
「ということは、あずさがいつも感じていた僕の視線を受けることなしに、自分を昂らせなくちゃならないんだよ。それでもやる?」
清楚で上品な女子大生は、迷いなく頷いた。
「だって、後で私がどんなふうに実行して、どれくらい感じたかをご報告すれば、ご主人さまが喜んでくださるんですよね? だったらやり甲斐があります」
そう屈託なく笑う彼女を、僕は思わず抱きした。
胸に熱いものがこみ上げてきて思わず泣きそうになったが、懸命に堪えた。飼い主が奴隷の言葉に感動して泣いたのでは、示しがつかない。
その夜、僕は彼女に、実行のための場所と時間と手順を伝えた。今度二人で下見に行くとしようか。ここで実行するんだという予感だけで、この娘は激しく濡らしてしまうだろう。
これまでとは違う興奮が、僕の胸のうちに湧き上がっていた。
(17に続く)
靴を脱いで上がるとき、彼女がどこか首筋をかばうように見えたのは、まだ違和感が残っているからだろう。
皮膚の薄い、柔らかな部分だ。実際に傷を入れるわけではなく、厳密に言えば塗るという行為なのだけれど、それでも施術は痛く、辛かったに違いない。
それでも、この娘はやってくれたのだ。
僕に忠誠を誓うために。
「あずさ、見せてごらん。君の、奴隷としての証を」
僕がそう言うと、あずさはうれしそうに笑って背中を向けた。
後ろ髪を掻きわけ、後れ毛の生えた白いうなじを見せる。
若い女の子の、きれいなうなじ。
そこにくっきりと、僕の奴隷であることの証がある。
ほつれ毛の浮いた白い肌に、それはどこか控えめに、しかしその存在を主張するかのように、しっかりと刻まれていた。
実際に傷を付けて墨を流し入れたわけではなく、あくまでペイント・タトゥーの一種なのだが、それでもなかなか消えないようにできている。
定期的にメンテナンスをすれば、かなりの期間、そこに残り続けるだろう。
髪に隠れる場所であっても、いつ親や友達に見られるとも限らない。
そんなリスクを追ってまでも、この娘は僕に忠誠を誓ってくれるのだ。
それはもちろん、僕にとっては嬉しいことだった。
ついこの間まで、社会の底辺を張っていた自分が、こんな上品なお嬢様を性奴隷にし、あまつさえその娘から肉体も精神も捧げられている……。
つい二年前の自分に言って聞かせても、決して信じなかっただろう。
そんな、他人も羨む幸福な状況にありながら、僕の頭の一部は、妙に醒めていた。
もしかしたら、この娘の人生を引き受けるほどの覚悟が、いまの自分には必要なのかもしれない。
一時的にでも体に刻印を押し、心を含めて丸ごと自分のものにしてしまう行為は、おそらくそれに見合った代償を必要とするのだ。
僕にとって他人の人生を引き受けるということは、想像の外にあった。
だけど現にいま一人の女の子の全てを受け入れ、そしてこれから先はさらに、どんな女の子を引き受けていくかもわからない。
それが自分の宿命ならば、それを潔く受け入れようと、僕は思った。
あずさのおかげで、覚悟が決まったような気がする。自分の進むべき道を、これから迷いなく歩いていこうという決心が。
待っているのは間違いなく、破滅であろうけれども。
「あずさ」
僕は呼びかけた。
「一人前の僕の奴隷になるための、通過儀礼のようなプレイがあるんだ。やってみるかい?」
うなじを見せていた彼女が、後ろ髪に手を添えたまま振り向く。つぶらな瞳が僕を射抜いた。
「それは、どういうものですか……?」
かつて遙にさせた、屋外でのプレイのことを離した。
僕のいないところで、一人だけで行う羞恥行為。
抵抗を示すと思っていたあずさは、意外にも瞳を輝かせた。
「それ、やりたいです、私」
「本当に?」
「ええ、だってそれをすれば、私はもっとご主人様に喜んでいただける奴隷になれるんでしょう? だったら喜んでやります」
僕はまじまじとあずさの顔を見た。どこにも繕った様子はない。
無理して言っているのではなく、この娘は本気で、僕の出した課題をクリアしたがっているのだ。
「あずさはこれまで、他人のいるところで僕に責められるのを好んできたよね。今度は僕なしで実行するんだよ」
「はい」
「ということは、あずさがいつも感じていた僕の視線を受けることなしに、自分を昂らせなくちゃならないんだよ。それでもやる?」
清楚で上品な女子大生は、迷いなく頷いた。
「だって、後で私がどんなふうに実行して、どれくらい感じたかをご報告すれば、ご主人さまが喜んでくださるんですよね? だったらやり甲斐があります」
そう屈託なく笑う彼女を、僕は思わず抱きした。
胸に熱いものがこみ上げてきて思わず泣きそうになったが、懸命に堪えた。飼い主が奴隷の言葉に感動して泣いたのでは、示しがつかない。
その夜、僕は彼女に、実行のための場所と時間と手順を伝えた。今度二人で下見に行くとしようか。ここで実行するんだという予感だけで、この娘は激しく濡らしてしまうだろう。
これまでとは違う興奮が、僕の胸のうちに湧き上がっていた。
(17に続く)