11 あずさ 7.4 「選びなさい」
- 2014/07/04
- 10:33
ここのところ昼間の健全なデート(表向きだけだが)や、離れた場所での発言チェック(実は羞恥指令なのだが)が続いていたので、夜にあずさと会うのは久しぶりだった。
週末の夜。94万人都市の中心繁華街。
中央公園から市街地を斜めに横切り駅の高架下へと伸びる通りは、ブティックや飲食店が並ぶ賑やかなファッション・ストリートだ。
通称ナンパ通りと呼ばれる歩道には若い女の子たちがあふれ、彼女たちに声を掛ける男たちがたむろする。黒いスーツ姿の呼び込みが客を探して辺りを見回している。
そのナンパ通りの突き当たり、市内で最も人が行き交うスクランブル交差点の角に、僕たち二人は立っていた。
JRからまっすぐ歩いてきた人と、一階にモスバーガーが入るガラス張りのビルから出てきた客たちが、斜めのストライプ模様の上で交差する。
いろんな欲望で通り自体が熱を帯びているかのような、金曜の夜。
巨大な生き物のようにぞろぞろと行き交うその雑踏を、僕たちは眺めていた。
あずさの白い頬は、信号やネオンや車のライトを映す鏡のようだった。赤や青にサッと染まり、すぐに戻る。
「さて、そろそろ行こうか。もう心の準備はできてるだろ?」
囁くように言うと、あずさはこくんと頷いた。ノースリーブの夏服からのびた細い二の腕が、ふるふると小さく震えている。梅雨時期のねっとりと重い風がそこを撫でていく。
剥きだしになった腕と、ミニスカートから覗くナマ脚、それにFカップの胸が張り出すように強調される服。
きちんと指示通りの格好で、この娘は夜の街にやってきた。さっきから通りすがりの若い男たちが、ちらちらと彼女を盗み見ている。
黒い波のうねりにまぎれ、僕たちはスクランブル交差点を渡った。角にあるガラスの塔の内側で、若いカップルが楽しそうにハンバーガーをぱくついている。
ファミレスの角を曲がり、お好み焼き店の脇を抜けて、派手な看板を掲げたそのビルにたどり着いた。この辺りは人通りは多いが、やや薄暗いため、人目があまり気にならない。
階段を昇った二階には、中規模のアダルトショップがある。扱っているものは主にAVのDVDだが、いわゆる大人のオモチャと呼ばれるグッズも売っている。
二階へ上がる階段の壁に貼られたAV女優のポスターを、あずさが不思議そうに見た。このままアイドルにしてもおかしくないほどの美少女が、全裸で微笑んでいる。
「かわいい。こんな娘がAVに……?」
「そう。こんな清純そうな顔をした娘が、裸になってエッチしまくるんだよ。男たちはその映像を見ながらオナニーするんだ」
「……」
男のそうしたドス黒い欲望が理解できないというふうに、上品な女子大生は小首を傾けた。その耳元僕は囁く。
「あずさもこれから、DVDを買いに来ている男たちの視線に晒されるんだよ。AV女優と同じように」
「やっ……」
「お客さん、皆びっくりするだろうね。エッチなDVDを選んでるところに、美少女AV女優みたいなあずさがリアルに現れるんだから」
初体験モノ作品に登場するような現役の女子大生は、目を閉じていやいやと首を振る。羞恥にまみれるその姿がたまらなかいほどぞくぞくさせる。
彼女を促し、二階への階段を先に昇らせた。目の前でミニスカートの丸い尻が揺れる光景は、何度見ても飽きない。
おそらくそのスカートの内側は、これから起こることを予想して、もうじっとりと濡れているはずだ。
ちりん。鈴を鳴らしてドアを開ける。
扱っているもののいかがわしさとは対照的な、明るく清潔感のある空間が、僕たちの目の前に広がった。
それほど広くはないフロアにいくつも並んだ、DVDがぎっちりと詰まった縦置きラック。それらを区切る通路は狭く、すれ違うためには客同士が体を捻らなくてはならない。
だが、そこここにいる男性客たちには、あまり他人とふれあう気はなさそうだった。通路に人がいれば大回りして別の棚へ行くだろう。そんな見えないバリアを皆が発している。
カジュアルな服にバッグをたすきがけした小太りの若者、禿げ上がった頭に薄い髪を撫でつけたスーツ姿の年配。友人同士でにやにやしながらパッケージを見る若者たち。
生身の女に縁がなさそうな人種の男たちが、店内にあふれている。アイドルが歌うBGMが流れる空間は、どこか物悲しかった。
僕もこの間までは、彼らと同類だったのだが。
あずさは入口近くで、石のように立ち尽くしている。
こんな場所に来たのはもちろん初めてなのだ。そして、暗くそのくせギラついた男たちにも、初めて接するのだろう。
普段の彼女は、県内でも有数の偏差値を誇る大学に通い、健全な男女の友人たちと明るいキャンパスライフを送る、上品なお嬢さま女子大生なのだから。
鞄をたすきがけにした小太りの男が、あずさに気づいてぎょっとした。犯罪行為を目撃されたかのようにそそくさとその場から去る。
消え去ったと思ったその男はしかし、隣の通路に移ると、物陰からじっとこちらを凝視している。僕と目が合うと、慌てて逸らした。
「注目の的だね」
僕が言うと、美人女子大生はうつむいて小さく首を振った。
上品で知的、しかも男が夢に見るようなボディの持ち主だから、街中であからさまな視線を投げつけられることには慣れているはずである。
しかし、この閉ざされた空間で、パッケージの裸女たちに向けられるのと同じ欲望の視線を浴びるのは、相当な恥辱体験だろう。この娘はまだ二十歳そこそこなのだ。
もちろん、これも調教の一環である。
見られることに感じるタイプのあずさが、究極的に恥ずかしい視姦対象となったとき、どこまで淫乱に変わるのか。それを今日は試すのである。
店内にざわざわと小さなざわめきが起きつつあった。スケベなことを考えている男ばかりの集団の中に、いきなり若くてきれいな女の子が入ってきたのだから当然だ。
しかもその娘は、ノースリーブの肩やミニスカートの脚からぴちぴちのナマ肌を露わにし、ツンと尖ったバストや揺れるヒップを見せつけながら、狭い通路を歩いているのだ。
メガネをかけた学生も頭の薄いサラリーマンもオタクふうの男も、皆目を丸くしてこちらを見ている。そのくせあずさと視線が合うと、慌てて逸らせた。
すぐ背後に僕がいるのに気づいて、どうやらこいつの指令で歩かされているのだと気づくのだろう。もし一人なら、あずさはどうなっていたかわからない。
伏せ目がちに歩く黒髪ボブの耳元に、僕は囁いた。
「向こう側の棚に行ってみようか。あずさの好きな作品が並んでるかもしれないよ」
うつむいていた白い横顔があがり、彼女の視線は「アブノーマルはこちら→」のPOPに注がれた。
そっと肩を押して促すと、店内ただ一人の女性客は、よたよたとした足取りでラックの角を曲がった。
店のいちばん奥まった場所にあるその棚の前でも、男性客が二人ほどDVDを手に取っていた。突然現れたあずさの姿にびっくりし、気まずそうにパッケージを棚に戻す。
そそくさと立ち去った彼らはやはり、離れた場所からチラチラとこちらをうかがっている。
無人となった棚の「露出調教」と書かれたコーナーへ、僕はかわいい飼い犬を導いた。
並んでいるDVDの表紙は、公園や街角でコートの前を開いたりしゃがんで放尿している女性たちの姿である。
目線が入ったもの、顔出しのもの。嫌がっているもの、悦んでいるもの。さまざまだ。
横目でちらりとあずさの表情をうかがった。
清楚な美人女子大生は、それらのパッケージを食い入るように見つめていた。明らかに興奮しているのが、この至近距離からありありと伝わってくる。
僕は指を伸ばし、剥き出しの白い腕を、すっと撫であげた。
「ひっ」
あずさが身を引く。小さな悲鳴は周りの男たちにも聞こえたはずだ。
「すごく敏感になってるね。やっぱり興奮してるんだ?」
「して……ません……」
さわられた片方の腕をもう一方の手でぎゅっと握り締め、視線を床に落としてあずさはつぶやく。
黒髪から覗く瞳には、言葉に反して、すでに淫欲の色がありありと浮かんでいた。
「パッケージをいろいろ手にとって見てごらん。たくさんあるから」
「……」
あずさは言われたとおり、目の前の棚からDVDをとって表装を見つめた。
色白のふっくらとした肌を覗かせた女子大生が、「衆人環視の中で喘ぐド変態女たち!」といった文字が躍るパッケージをじっと見ている。その姿だけで十分にエロい。
動かないようにね。そう釘を刺してから、僕は再びすぐ側にある若々しい女体に手を伸ばした。
服の上から背中をすっと撫で上げる。あずさはDVDを握り締めたまま、「ん、あっ!」とまた声を漏らした。今度は一度でやめず、何回もスーッ、スーッと指を往復させる。
ノースリーブから出ている丸い肩が、はっきりそれとわかるくらいに、ぶるぶると震えはじめた。
訴えるような瞳が僕を見上げる。「ダメ……許して……」と赤い唇がつぶやく。
男たちが隠れて見ている中、抵抗できない痴漢行為を受け入れている、僕のペット。
その困り果てた反応に、僕は激しく勃起していた。手首を掴んでズボンの前をさわらせたいくらいだ。
欲望をぐっと堪え、女体を撫でることに集中する。
ミニスカートの丸いお尻。つややかな太もも。
肌の上を僕の指が這うたびに、清楚な美人女子大生は「うっ……」「はあぁ……」と甘くセクシーに喘いだ。ナマ脚の膝はがくがくと揺れ、いまにも崩れ落ちそうだ。
「濡れてるでしょ、あずさ。皆からチラチラ見られながら、こんなふうにさわられて」
「ああ、いや、そんなこと……」
「スカートをめくりあげて、濡れたショーツを皆に見せてあげるかい?」
「ダメ、それは、絶対」
もとより、そんなことをするつもりはなかった。ちら見している連中にそこまでサービスしてやる義理はない
「そろそろ買い物をしようか。向こうの棚に行こう」
そう言って、再び店内を移動した。
たどり着いたのは、アダルトグッズのコーナーである。
太い男根を模したグロテスクなディルドゥがいくつも並んでいる。恥ずかしそうに目を伏せるあずさに、僕は命じた。
「好きなのを選びなさい。買ってあげる」
「私が選ぶんですか?」
「そう。どれを自分の中に入れたらいちばん気持ちいいか、ちゃんと考えるんだよ」
五分ほど迷って手にとったそれは、黒光りがする極太のものだった。
「すごいね、そんな大きいのを入れたいんだ?」
「やだ、大きな声で言わないでください」
自分でそれをレジへ持っていかせ、買わせた。若い店員にきちんと「私にこのバイブをください」ときちんと言わせてから。
やっと店を出てほっとしている飼い犬の手を、僕はぎゅっと握りしめる。小さな手のひらはじっとりと汗ばんでいた。
いやらしいオモチャを手に歩くあずさに、僕はそっと囁いた。
「さて、これからが本番だからね」
(12へ続く)
週末の夜。94万人都市の中心繁華街。
中央公園から市街地を斜めに横切り駅の高架下へと伸びる通りは、ブティックや飲食店が並ぶ賑やかなファッション・ストリートだ。
通称ナンパ通りと呼ばれる歩道には若い女の子たちがあふれ、彼女たちに声を掛ける男たちがたむろする。黒いスーツ姿の呼び込みが客を探して辺りを見回している。
そのナンパ通りの突き当たり、市内で最も人が行き交うスクランブル交差点の角に、僕たち二人は立っていた。
JRからまっすぐ歩いてきた人と、一階にモスバーガーが入るガラス張りのビルから出てきた客たちが、斜めのストライプ模様の上で交差する。
いろんな欲望で通り自体が熱を帯びているかのような、金曜の夜。
巨大な生き物のようにぞろぞろと行き交うその雑踏を、僕たちは眺めていた。
あずさの白い頬は、信号やネオンや車のライトを映す鏡のようだった。赤や青にサッと染まり、すぐに戻る。
「さて、そろそろ行こうか。もう心の準備はできてるだろ?」
囁くように言うと、あずさはこくんと頷いた。ノースリーブの夏服からのびた細い二の腕が、ふるふると小さく震えている。梅雨時期のねっとりと重い風がそこを撫でていく。
剥きだしになった腕と、ミニスカートから覗くナマ脚、それにFカップの胸が張り出すように強調される服。
きちんと指示通りの格好で、この娘は夜の街にやってきた。さっきから通りすがりの若い男たちが、ちらちらと彼女を盗み見ている。
黒い波のうねりにまぎれ、僕たちはスクランブル交差点を渡った。角にあるガラスの塔の内側で、若いカップルが楽しそうにハンバーガーをぱくついている。
ファミレスの角を曲がり、お好み焼き店の脇を抜けて、派手な看板を掲げたそのビルにたどり着いた。この辺りは人通りは多いが、やや薄暗いため、人目があまり気にならない。
階段を昇った二階には、中規模のアダルトショップがある。扱っているものは主にAVのDVDだが、いわゆる大人のオモチャと呼ばれるグッズも売っている。
二階へ上がる階段の壁に貼られたAV女優のポスターを、あずさが不思議そうに見た。このままアイドルにしてもおかしくないほどの美少女が、全裸で微笑んでいる。
「かわいい。こんな娘がAVに……?」
「そう。こんな清純そうな顔をした娘が、裸になってエッチしまくるんだよ。男たちはその映像を見ながらオナニーするんだ」
「……」
男のそうしたドス黒い欲望が理解できないというふうに、上品な女子大生は小首を傾けた。その耳元僕は囁く。
「あずさもこれから、DVDを買いに来ている男たちの視線に晒されるんだよ。AV女優と同じように」
「やっ……」
「お客さん、皆びっくりするだろうね。エッチなDVDを選んでるところに、美少女AV女優みたいなあずさがリアルに現れるんだから」
初体験モノ作品に登場するような現役の女子大生は、目を閉じていやいやと首を振る。羞恥にまみれるその姿がたまらなかいほどぞくぞくさせる。
彼女を促し、二階への階段を先に昇らせた。目の前でミニスカートの丸い尻が揺れる光景は、何度見ても飽きない。
おそらくそのスカートの内側は、これから起こることを予想して、もうじっとりと濡れているはずだ。
ちりん。鈴を鳴らしてドアを開ける。
扱っているもののいかがわしさとは対照的な、明るく清潔感のある空間が、僕たちの目の前に広がった。
それほど広くはないフロアにいくつも並んだ、DVDがぎっちりと詰まった縦置きラック。それらを区切る通路は狭く、すれ違うためには客同士が体を捻らなくてはならない。
だが、そこここにいる男性客たちには、あまり他人とふれあう気はなさそうだった。通路に人がいれば大回りして別の棚へ行くだろう。そんな見えないバリアを皆が発している。
カジュアルな服にバッグをたすきがけした小太りの若者、禿げ上がった頭に薄い髪を撫でつけたスーツ姿の年配。友人同士でにやにやしながらパッケージを見る若者たち。
生身の女に縁がなさそうな人種の男たちが、店内にあふれている。アイドルが歌うBGMが流れる空間は、どこか物悲しかった。
僕もこの間までは、彼らと同類だったのだが。
あずさは入口近くで、石のように立ち尽くしている。
こんな場所に来たのはもちろん初めてなのだ。そして、暗くそのくせギラついた男たちにも、初めて接するのだろう。
普段の彼女は、県内でも有数の偏差値を誇る大学に通い、健全な男女の友人たちと明るいキャンパスライフを送る、上品なお嬢さま女子大生なのだから。
鞄をたすきがけにした小太りの男が、あずさに気づいてぎょっとした。犯罪行為を目撃されたかのようにそそくさとその場から去る。
消え去ったと思ったその男はしかし、隣の通路に移ると、物陰からじっとこちらを凝視している。僕と目が合うと、慌てて逸らした。
「注目の的だね」
僕が言うと、美人女子大生はうつむいて小さく首を振った。
上品で知的、しかも男が夢に見るようなボディの持ち主だから、街中であからさまな視線を投げつけられることには慣れているはずである。
しかし、この閉ざされた空間で、パッケージの裸女たちに向けられるのと同じ欲望の視線を浴びるのは、相当な恥辱体験だろう。この娘はまだ二十歳そこそこなのだ。
もちろん、これも調教の一環である。
見られることに感じるタイプのあずさが、究極的に恥ずかしい視姦対象となったとき、どこまで淫乱に変わるのか。それを今日は試すのである。
店内にざわざわと小さなざわめきが起きつつあった。スケベなことを考えている男ばかりの集団の中に、いきなり若くてきれいな女の子が入ってきたのだから当然だ。
しかもその娘は、ノースリーブの肩やミニスカートの脚からぴちぴちのナマ肌を露わにし、ツンと尖ったバストや揺れるヒップを見せつけながら、狭い通路を歩いているのだ。
メガネをかけた学生も頭の薄いサラリーマンもオタクふうの男も、皆目を丸くしてこちらを見ている。そのくせあずさと視線が合うと、慌てて逸らせた。
すぐ背後に僕がいるのに気づいて、どうやらこいつの指令で歩かされているのだと気づくのだろう。もし一人なら、あずさはどうなっていたかわからない。
伏せ目がちに歩く黒髪ボブの耳元に、僕は囁いた。
「向こう側の棚に行ってみようか。あずさの好きな作品が並んでるかもしれないよ」
うつむいていた白い横顔があがり、彼女の視線は「アブノーマルはこちら→」のPOPに注がれた。
そっと肩を押して促すと、店内ただ一人の女性客は、よたよたとした足取りでラックの角を曲がった。
店のいちばん奥まった場所にあるその棚の前でも、男性客が二人ほどDVDを手に取っていた。突然現れたあずさの姿にびっくりし、気まずそうにパッケージを棚に戻す。
そそくさと立ち去った彼らはやはり、離れた場所からチラチラとこちらをうかがっている。
無人となった棚の「露出調教」と書かれたコーナーへ、僕はかわいい飼い犬を導いた。
並んでいるDVDの表紙は、公園や街角でコートの前を開いたりしゃがんで放尿している女性たちの姿である。
目線が入ったもの、顔出しのもの。嫌がっているもの、悦んでいるもの。さまざまだ。
横目でちらりとあずさの表情をうかがった。
清楚な美人女子大生は、それらのパッケージを食い入るように見つめていた。明らかに興奮しているのが、この至近距離からありありと伝わってくる。
僕は指を伸ばし、剥き出しの白い腕を、すっと撫であげた。
「ひっ」
あずさが身を引く。小さな悲鳴は周りの男たちにも聞こえたはずだ。
「すごく敏感になってるね。やっぱり興奮してるんだ?」
「して……ません……」
さわられた片方の腕をもう一方の手でぎゅっと握り締め、視線を床に落としてあずさはつぶやく。
黒髪から覗く瞳には、言葉に反して、すでに淫欲の色がありありと浮かんでいた。
「パッケージをいろいろ手にとって見てごらん。たくさんあるから」
「……」
あずさは言われたとおり、目の前の棚からDVDをとって表装を見つめた。
色白のふっくらとした肌を覗かせた女子大生が、「衆人環視の中で喘ぐド変態女たち!」といった文字が躍るパッケージをじっと見ている。その姿だけで十分にエロい。
動かないようにね。そう釘を刺してから、僕は再びすぐ側にある若々しい女体に手を伸ばした。
服の上から背中をすっと撫で上げる。あずさはDVDを握り締めたまま、「ん、あっ!」とまた声を漏らした。今度は一度でやめず、何回もスーッ、スーッと指を往復させる。
ノースリーブから出ている丸い肩が、はっきりそれとわかるくらいに、ぶるぶると震えはじめた。
訴えるような瞳が僕を見上げる。「ダメ……許して……」と赤い唇がつぶやく。
男たちが隠れて見ている中、抵抗できない痴漢行為を受け入れている、僕のペット。
その困り果てた反応に、僕は激しく勃起していた。手首を掴んでズボンの前をさわらせたいくらいだ。
欲望をぐっと堪え、女体を撫でることに集中する。
ミニスカートの丸いお尻。つややかな太もも。
肌の上を僕の指が這うたびに、清楚な美人女子大生は「うっ……」「はあぁ……」と甘くセクシーに喘いだ。ナマ脚の膝はがくがくと揺れ、いまにも崩れ落ちそうだ。
「濡れてるでしょ、あずさ。皆からチラチラ見られながら、こんなふうにさわられて」
「ああ、いや、そんなこと……」
「スカートをめくりあげて、濡れたショーツを皆に見せてあげるかい?」
「ダメ、それは、絶対」
もとより、そんなことをするつもりはなかった。ちら見している連中にそこまでサービスしてやる義理はない
「そろそろ買い物をしようか。向こうの棚に行こう」
そう言って、再び店内を移動した。
たどり着いたのは、アダルトグッズのコーナーである。
太い男根を模したグロテスクなディルドゥがいくつも並んでいる。恥ずかしそうに目を伏せるあずさに、僕は命じた。
「好きなのを選びなさい。買ってあげる」
「私が選ぶんですか?」
「そう。どれを自分の中に入れたらいちばん気持ちいいか、ちゃんと考えるんだよ」
五分ほど迷って手にとったそれは、黒光りがする極太のものだった。
「すごいね、そんな大きいのを入れたいんだ?」
「やだ、大きな声で言わないでください」
自分でそれをレジへ持っていかせ、買わせた。若い店員にきちんと「私にこのバイブをください」ときちんと言わせてから。
やっと店を出てほっとしている飼い犬の手を、僕はぎゅっと握りしめる。小さな手のひらはじっとりと汗ばんでいた。
いやらしいオモチャを手に歩くあずさに、僕はそっと囁いた。
「さて、これからが本番だからね」
(12へ続く)